深く考えないで捨てるように書く、また

もう一度、自分自身と、自分の中の言葉と生で向き合う

ネット上で一人称を「あたし」という男の話

あけましておめでとうございます。新年第一弾。
はてな界隈で、ネット上での男女のコミュニケーションとかなんとかいう話を読んだので、そのあたりから思い出した話。


ニフティパソコン通信仲間に、一人称が「あたし」の男がいた。
主な棲息地はフォーラムのRT(チャット)なのだけれど、会議室にも書き込みしていた。もちろん「あたし」。
彼が初めてRTに登場したとき、彼が男であることを誰も疑わなかった。当時のパソコン通信では女性は非常に稀だったので*1、よっぽど女性的な言葉遣いをする人や明らかに女性的なハンドルをつける人でない限り、まずは男と思え、というのが常識でもあった。ちなみに彼のハンドルは性別不詳のものだった。
いずれにしろ、彼はネカマをするつもりは毛頭なく、こちらも誤解することなく、ごく普通に男性としてその場に溶け込んだ。一人称は「あたし」のまま。
まあ、ニュアンスとしてはボヤッキーとかつボイノリオ*2っぽい感じの「あたし」であるので、周囲の人間も普通に受け入れていたと思う。やがてオフ会でも互いに会う。ごっついいかにも男臭いという男ではなかったが、まあ普通に男性であった。女性と見紛うようなことは全くない。
そして何事もなく10年余りが過ぎる。


私はしばらく(年単位)のブランクの後、久方ぶりにフォーラムに復帰した。
多くの仲間がいなくなっていたが、まだそこには多数の人がいて、その中に「あたし」の男もいた。フォーラムスタッフになっていた。相変わらず「あたし」であった。
その頃、RTに、私がブランクをとる前にはいなかった新人の子がいた。10代の社会人の男の子である。
彼は社会に出ているせいか、10代にしてはしっかりしていて、でも若々しさが出ていて、楽しい話相手でもあった。体力もあってか、よく深夜にRTに来ていた。
彼は「あたし」男を慕っているようで、よく懐いている感じだった。「あたし」男も彼をかわいがっていて「いい子だよねぇ」と言っていた。うんうん。いい子だよ。
そんな日々が続いたある日のこと。「あたし」男の地元で久々にオフ会をやるか、という話になった。男の子はちょっと離れているが、日帰りで十分に来られる場所に住んでいて、その子も参加するということになった。私もそのオフに参加することとなり、あの子に会えるねぇ、どんな子かなあ、楽しみだねぇ、と「あたし」男と話したりなんかしていたものだ。


さて、オフ会まで数日となった日のRT。その時になって、衝撃的な事実が発覚した。
例の男の子は、「あたし」男のことを女性だと思っていたのだ。
そりゃ仰天した。ずっと以前からつきあいのある我々にとっては、「あたし」男が男性であることはもう10年以上当然のことであったし、少なくともRTで男性っぽい発言もしており、わざと女性と誤解させるような発言はしていないし、まさか女性だと思っているとは思わなかった。
しかし、言われてみれば、ハンドルは男でも女でも使えそうなものだし、RTではっきり性別を特定できるような話をそういつでもしてるわけもない。いかにも少女マンガな少女マンガが好きで「りぼん」買ってるとか、そういう微妙な話題もする。何より一人称が「あたし」なのが誤解を招いていたようだ。


それでも男の子は立派でした。いきなりRTから逃げ出すということはしなかった。その後オフ会までちゃんと毎日RTに来た。
そしてオフ会にも来た。来て、彼の想像していたのとは全く違った「あたし」男にも会った。会って一緒に飲んだ(彼は未成年だったのでアルコールは飲まなかったはず)。それとは別に、久しぶりに会えた人もたくさんいて、楽しいオフ会だった。
しかし、それからまもなく、彼はRTからフェイドアウトした。
確か社内での職場が配置換えになってRTにくるのがいろいろな意味で厳しくなったから、という理由だったと思うが、それまで彼をつなぎ止めていたある種のモチベーションが崩壊したんじゃないか、という想像は止められなかった。


その後、「あたし」男はどうなったかというと、私の旦那になった。
リアルでは「あたし」とは基本的には言わない。ネット関係の仲間内と会う場合は「あたし」だが、親族や職場、一般的なリアルの生活の範囲では、絶対にそんなふうには言わない。主に「俺」である。
しかし、今も自分のブログで「あたし」という一人称を使っている。


旦那、ネタに使ってごめんね。

*1:それでもそこは、サービス全体の中では比較的女性が多く集まっている場所ではあった。そこでもそんな感じだったのだから推して知るべし。

*2:はて、つボイノリオは「あたし」と言っていただろうか。はっきりした記憶がない。