深く考えないで捨てるように書く、また

もう一度、自分自身と、自分の中の言葉と生で向き合う

心の秘孔

なんというか、人の思考、心の中には、いわゆるツボというか秘孔というか、そこを突かれると精神的に瀕死になる、という部分があるみたいで。
こういうのは普通に生活しているだけだとあまり見えない(そりゃ自分の最も弱いポイントや死にそうに弱くなってしまった自分をそうそうそのへんの人に見せる人はいないので)が、ネットで見ているとけっこういろいろとあるんだな、ということに気がつく。そういう意味でネットは勉強になる。
重要なのは、そのポイントは人によってさまざまで、こういうところはみんな秘孔なものですよ、とか、ここはまず大丈夫ですよ、という共通点があまり見られないことだ。


秘孔を突かれると、突いた側は大したことしてない(言ってない)つもりなのに、突かれた側はとんでもないことになる。心理的もにぐちゃぐちゃ、感情は沸騰し、しかもなかなか収まらなくて、いつまでもいつまでもぐちゃぐちゃの心理を引きずるはめになる。あまりに感情が激動するので、日常生活にまで支障をきたすこともある。
実際、大したことではなかったりする。一般的には。だから他の人たちは「なんであんなに反感もつのかね」「理解できないねぇ」「変な人だねぇ」となってしまう。
そもそも、本人にとっても、そこが秘孔だとは突かれるまで気がついていなかったりするものだ。いきなり虚を衝かれて、自分の激情の荒くれぶりに「なに、なんだこれ? なんでこんなになっちゃうの?!」と思ったりする。


私にもそんな経験がある。
私の場合は、ある件についてあるネット知人が医療システムについて文句を言っていて*1、それについて反論をしたとき、「azumyさんはドクハラドクターハラスメント)する人だ」と断定されたことだった。
他のことは許せても、これだけは許せなかった。実際、業務の中でそういうことはしてこなかったと自分では思うし、自分でもドクハラ事例などは知っていて、そうなってはいけない、と意識しながら業務に当たっていた。
それでももしかしてしてしまった、ということは、ないとはいえない。その場で被害にあった人やその周囲の人に「あなたはドクハラする人ですね」と言われたのなら謝罪して、頭を垂れて反省する。しかし、彼はネット知人であって、私の診察を受けたこともなければ見たこともない人だ。そういう人に、こんなことを面と向かって断定された。
他に、個人的に私の性格などについてけっこうひどいことを言われたけれど、とにかくこの一言で他のことはどうでもよくなった、すべて吹っ飛んだ。
その人と対話を続けること自体、嫌になった。その人と同じ世界に住んでいること自体、本気で嫌になった。その人が死んでこの世からいなくなってくれればいい、その人の持病が悪くなって早々に命が尽きてしまえばいい。そんなひどい思いを心底から感じたのは初めてだった。
それがもう4年前。今では死んでほしいとまでは思わないが、同じ空気を吸いたくない、元気で暮らしている様子を見たくない、という思いは変わらない。ここまで思いが薄まるまで、4年かかった。


他人から見たら、なんでこんな程度で、そんなに怒り心頭に発しちゃうの? という感じだろう。自分自身でも、まあ他人には理解できないだろうな、できなくて当然だな、と思う。なんでこんなに猛烈に心理がかき乱されたのか、よく分からない。実際にその一言を言われるまで、その言葉でこんなに頭が沸騰するとも思わなかった。
しかし、感情は理屈じゃない。なぜそうなるの? という理由を説明できない現象はいつでも起こりうる。
それもまた、人間という存在に確実にある部分なのだと思う。そういうところを好ましく思えない人もいるのだろうし、できるだけそういう自分自身のコントロール外の部分を減らし、いつも冷静で理性的な自分でありたい、と努力している人もいるのだろう。
そんな人ほど、突然自分の隠された秘孔を突かれた時、動転し逆上するかもしれない。


猛獣を檻にいれておけば安心だが、檻の鍵が壊れて獣が逃げ出したとき、誰もそれに対処できないと大変なことになる。
自分の心には猛獣がいて、たとえ檻に入っていても、突然思いもかけないことで鍵が壊れるかもしれない、と思っておくこと。鍵は丈夫だが、ある脆弱点を突くと一気に砕けてしまうものであること。猛獣が逃げ出してしまったとき、自分で猛獣を慣らして捕らえることができるようにしておくこと。
他人が猛獣を逃がしてしまうこともあるし、また、自分が他人の鍵を思わずにも壊してしまうことがある、ということも心においておく。それは、そんな脆弱性をもつ鍵をつけていた側のせいでもなく、その脆弱性を知らずに突いてしまった側のせいでもない。ただたまたま相性がそうなってしまっただけのこと。どちらを責めることでもない。本人同士の間では感情の嵐があるとしても。
私も、上記の知人が悪い人ではなく、彼とつきあいのある人も多いことも知っている。彼とつきあいのある人に悪感情はもっていない。


どんな冷静で知的な人でも秘孔はどこかに隠し持っている、と思っていたほうが、自分としていろいろな意味でいいかな。とは思っている。結果的にそれがなかったとしても、なければないで困ることはないし。

*1:ある有料の医療システムについて「医者は仕事してないんだから無料にしろ」と言っていた。